大判例

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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)228号 判決

アメリカ合衆国 一二三〇五 ニユーヨーク州

スケネクタデイ リバーロード一番

原告

ゼネラルエレクトリツクカンバニイ

右代表者

ジエイムスダブリユウミツチエル

右訴訟代理人弁理土

生沼徳二

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

勝島慎二

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間として九〇日を定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五九年審判第一八〇八七号事件について平成元年六月八日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文一、二項と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、一九七五年一二月一〇日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和五一年九月九日、名称を「遠心圧縮機用デイフユーザ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和五一年特許願第一〇七三〇九号)をしたところ、昭和五九年五月一五日、拒絶査定を受けたので、同年一〇月一日、審判の請求をし、同年審判第一八〇八七号事件として審理され、昭和六一年三月一三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされたので、東京高等裁判所に対し、右審決取消請求の訴え(昭和六一年(行ケ)第一八三号事件)を提起し、同裁判所は、昭和六三年六月一四日、右審決を取り消す旨の判決をしたが、特許庁は、平成元年六月八日、再び「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(出訴期間として九〇日を附加)をし、その謄本は、同年七月一二日、原告に送達された。

二  本願発明の要旨

遠心圧縮機を囲む環状ハウジング(9)と、該環状ハウジングの周囲にそつて相隔たり且つそれを貫通している複数の通路(10)とを含み、該通路はそれぞれ入口(12)の断面が円形であつて前記遠心圧縮機を出る加速ガスを受入れるように配置され、そして前記通路の出口(14)における近似的に長方形の断面にしだいに変形している、比較的高圧の遠心圧縮機から環状燃焼室へ向う加速されたガス流を拡散させるデイフユーザ(8)において、各々の前記通路は直線形の中心線を有しており、且つ各々の前記通路の出口は二つの平らな対向側部(16、18)と二つの対向わん曲側部(20、22)とによつて限定され、該二つの平らな対向側部は相互に平行であり、該対わん曲側部はデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁(24)を形成することを特徴とするデイフユーザ(別紙図面一参照)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

2  これに対し、昭和四八年特許出願公開第三一五〇四号公報(以下「第一引用例」という。)には、「遠心圧縮機を囲む環状ハウジングと、該環状ハウジングの周囲にそつて相隔たり且つそれを貫通している複数の通路とを含み、該通路はそれぞれ入口の断面が円形であつて前記遠心圧縮機を出る加速ガスを受入れるように配置され、そして前記通路の出口における長方形の断面にしだいに変形しているデイフユーザにおいて、各々の前記通路は直線形の中心線を有しており、且つ前記通路の出口は二組の相互に平行な対向側部によつて限定され、対向する一組の平らな側部はデイフユーザ出口に端縁を形成するデイフユーザ」(特に第1図、第2図のもの、以下「第一実施例」という。別紙図面二参照)が記載されており、同じく「遠心圧縮機を囲む環状ハウジングと、該環状ハウジングの周囲にそつて相隔たり且つそれを貫通している複数の通路とを含み、該通路はそれぞれ入口の断面が円形であつて前記遠心圧縮機を出る加速ガスを受入れるように配置され、そして前記通路の出口における長方形の断面にしだいに変形している、比較的高圧の遠心圧縮機から燃焼室へ向かう加速されたガス流を拡散させるデイフユーザにおいて、各々の前記通路は直線形の中心線を有しており、該通路は円形入口断面をとり矩形出口断面に徐々になじむようにし、通路出口を矩形断面で軸方向に伸びる幅の薄い後縁にして流れの剥離及び損失を伴わない滑らかで一様な流れに合流させるようにしたデイフユーザ」(特に第3図ないし第5図のもの、以下「第二実施例」という。別紙図面二参照)が記載されており、また、昭和五〇年特許出願公開第三二五〇六号公報(以下、「第二引用例」という。)には、「遠心圧縮機のデイフユーザにおいて、多数のセグメントを含み、各々のセグメントの尖端部で合流する二つの略円形断面の溝形側面を有し、通路の出口は二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部とによつて限定され、該二つの平らな対向側部は相互に平行であり、該対向わん曲側部はデイフユーザ出口が平坦縁で形成されたデイフユーザ」(別紙図面三参照)が記載されている。

3  本願発明と第一実施例記載のデイフユーザとを対比検討すると、両発明は、次の点で相違し、その余の点では一致するものと認められる。

即ち、本願発明は、通路の出口における近似的に長方形の断面にしだいに変形している、比較的高圧の遠心圧縮機から環状燃焼室へ向かう加速されたガス流を拡散させるデイフユーザであつて、通路の出口は二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部とによつて限定され、該対向わん曲側部はデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁を形成しているのに対し、第一実施例記載のデイフユーザでは、通路出口が近似的長方形の断面ではなく、環状燃焼室へ向かう加速されたガス流を拡散させるデイフユーザなのか否か明らかでなく、通路の出口は二組の相互に平行な対向側部によつて限定された長方形であつて、該二つの対向直線側部の形状は明らかでなく、二つの対向直線側部はデイフユーザ出口に端縁を形成するが、極めて鋭いか否かも明らかでない。

4  そこで、前記相違点について検討する。

環状ハウジングの周囲に通路を設け燃焼室へ向かう加速されたガス流の拡散用デイフユーザは、第一引用例の第二実施例に記載されており、かつ燃焼室を環状にすることは例示するまでもなく従来周知の技術なので、本願発明のように環状燃焼室へ向かう加速されたガス流を拡散させるデイフユーザに用いるようなことは、単なる設計的事項にすぎない。また、一般にこの種の遠心圧縮機用デイフユーザにおいて、通路の出口端縁が平坦縁で、セグメントを組み合わせたものではあるが、通路の出口を近似的長方形断面である二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部とによつて限定させるようなことは、第二引用例に記載されているので、第一引用例の第一実施例に記載された発明の二組の相互に平行な対向側部によつて限定された長方形断面にしだいに変形させた通路に代えて、本願発明のように二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部とによつて限定された出口の断面を近似的長方形の通路にしだいに変形させるようなことは、第二引用例記載の発明により当業者であれば容易になすことができたものである。

更に、種々の用途のデイフユーザにおいて、流れの剥離及び損失等を伴わないようにデイフユーザの形状を流線形等にしたりすることは、例示するまでもなく従来周知の技術であり、かつ通路の出口の断面の軸方向に伸びる幅を薄い後縁にすることで滑らかで一様な流れに合流させるデイフユーザは、第一引用例の第二実施例にも記載されているので、本願発明のような対向わん曲側部で構成される通路の出口の端縁部をも一様な流れに合流させんとすることは当然のことで、本願発明のようにデイフユーザの通路出口を極めて鋭い端縁にするようなことは、単なる設計的事項にすぎない。

そして、本願発明の要旨とする構成によつてもたらされる効果も、第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例に記載された発明から当業者であれば当然予測することができたものである。

5  したがつて、本願発明は、第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の本願発明の要旨、本願発明と第一引用例の第一実施例(ただし、審決が第一実施例と定義したものは、第一引用例に従来技術の「普通の環状デイフユーザ11」として記載されたもので第一引用例の特許請求の範囲に記載された発明の実施例でない。右発明の実施例は審決が「第二実施例」と定義した「環状デイフユーザ30」のみである。)の発明との相違点の認定は認めるが、第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明の技術事項の認定、本願発明と第一実施例記載の発明との一致点の認定及び相違点に対する判断は争う。

審決は、第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明の技術内容の認定を誤り、それにより本願発明と第一実施例記載の発明との一致点の認定及び相違点に対する判断を誤り、また、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過し、もつて本願発明の進歩性を誤つて否定したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由一-一致点認定の誤り

審決は、第一引用例の第一実施例記載のデイフユーザの通路は、入口の円形の断面から出口の長方形の断面に「しだいに変形している」と認定し、もつて、本願発明のデイフユーザの通路が入口の円形の断面から出口の近似的に長方形の断面に「しだいに変形している」点で一致する旨認定している。

第一実施例記載のデイフユーザにおいては、「通路に最初は円形入口断面25をとらせ、通路を徐々に矩形出口断面26になじませ」(第一引用例二頁右下欄一二行、一三行)るものであるが、通路24を円形入口断面25から徐々になじませて矩形入口断面26に至る途中の形状は具体的に示されていない。

本願発明では「通路(10)はそれぞれ入口(12)の断面が円形であつて、通路の出口(14)における近似的に長方形の断面にしだいに変形していて、各々の通路は直線形の中心線を有し、各々の通路の出口は二つの平らな対向側部(16、18)と二つの対向わん曲側部(20、22)とによつて限定され、該二つの平らな対向側部は相互に平行であり、該対向わん曲側部はデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁24を形成する」ものである。そして、別紙図面一の第3図ないし第6図からも明らかなように、円形断面の入口と近似的に長方形の断面の出口を繋ぐ通路は、二つの対向側部(16、18)と二つの対向わん曲側部(20、22)から構成されていて、通路が入口から出口に向かつて徐々に拡がつていくように構成されている。本願発明の「しだいに変形する通路」はこのようなものである。

第一実施例記載のデイフユーザの通路は、その途中の形状は判然としないが、円形入口断面から矩形出口断面に「徐々になじませる」ものであるから、本願発明の通路の形状と異なることは明らかである。そして、第一実施例記載のデイフユーザの通路を徐々に矩形出口断面26になじませる形状は明らかでないから、これも第二実施例記載のデイフユーザと同様に、矩形出口断面になじませるなじみ通路を設けるものと考えるのが至当である。

したがつて、第一実施例に「しだいに変形させた通路」が記載されているということはできない。

以上のとおり、審決が第一実施例記載のデイフユーザの通路は、入口の円形の断面から出口の長方形の断面に「しだいに変形している」と認定したことは誤りであり、したがつてまた、本願発明のデイフユーザの通路が入口の円形の断面から出口の近似的に長方形の断面に「しだいに変形している」点で一致する旨認定したのは誤りである。

したがつて、審決はこの点において既に違法であり、取消しを免れない。

2  取消事由二-相違点に対する判断の誤り(一)

仮に、第一引用例の第一実施例記載のデイフユーザの通路が入口から出口までその断面を「しだいに変形させる」ものであるとしても、審決が、右デイフユーザの通路を「二組の相互に平行な対向側部によつて限定された長方形断面」にしだいに変形させることに代えて、本願発明のように通路を「二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部とによつて限定された近似的に長方形の断面」にしだいに変形させるようなことは、当業者にとつて第二引用例記載の発明により容易である旨判断したことは誤りである。

第一実施例記載のデイフユーザにおいては、曲線状通路の鈍つた縁では出て行く流れは乱流となるとして、出口断面を直線状即ち矩形にして縁を簿くするものである。

一方、第二引用例記載の発明のデイフユーザの通路出口は円弧あるいは曲線状の厚い縁である。

また、第一実施例記載のデイフユーザの通路は、「最初は円形又は曲線状の入口断面をとらせ、徐々に矩形の出口断面になじませる」ものであるのに対し、第二引用例記載の発明のデイフユーザの通路は、入口から出口まで断面積が異なるのみで、同一形状であつて、通路の形状を矩形出口断面になじませる技術的思想はない。

したがつて、曲線状の出口断面を有する通路を否定して直線状の出口断面の通路を採用した第一実施例記載のデイフユーザの通路を第二引用例記載の発明のデイフユーザに示す通路に置換することは、第一引用例の設定した目的に対し当然必要な機能を有さない置換であるから、この置換には予測性がないものであり、当業者が容易に想到しえたものではない。

3  取消事由三-相違点に対する判断の誤り(二)

審決は、本願発明の対向わん曲側部かデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁を形成させていることについて、通路の出口の断面の軸方向に伸びる幅を薄い後縁にすることで滑らかで一様な流れに合流させるデイフユーザが第一引用例の第二実施例に記載されていることをもつて、本願発明のような対向わん曲側部で構成される通路の出口の端縁部も一様な流れに合流させようとすることは当然のことであるとして、本願発明の前記構成は単なる設計的事項にすぎないと判断しているが、この判断は誤りである。

デイフユーザ出口から流れ出る流体の流れが滑らかで一様となるか否かは、単に出口の縁の薄さのみで決まるのではなく、デイフユーザの流体通路の形状によつても決まるのである。

第二実施例記載のデイフユーザの直線状通路の場合は縁が薄いものが望ましいとしても、縁か薄い程良いとはいえないのである。このデイフユーザの通路34は、全体に円錐形の通路44と全体的になじむ通路46とからなり、なじみの通路46は、半径方向の一番外側の端に局限されている(第一引用例三頁右下欄一七行ないし一九行)。断面積が一定の本来的にデイフユーザの機能を有しないなじみ通路46の長さは押さえられている(同四頁左上欄一三行ないし一五行)。なじみ通路46は長さが短いため、第3a図及び第4図に示すように、なじみ通路の中心線からの通路の壁の円周方向の発散角度が大きい。すなわち、なじみ通路46の円周方向の幅の変化は急である。このため、なじみ通路46から流出する流体は円周方向の成分が大きい。互いに隣接するなじみ通路から流出する流体は、互いに反対方向の円周成分を有するため、交錯し、流れを乱すことになる。この現象は出口の縁を薄くする程、通路の壁の発散角度が大となり、著しくなる。更に、第二実施例では、通路の出口断面を直線状にして縁を薄くすることを示しているのである。

したかつて、本願発明のように曲線状の縁を極めて薄くすることは、第二実施例からは全く想到しえないことであり、本願発明のように出口の端縁を極めて薄くすることが単なる設計的事項であるということはできないものである。

4  取消事由四-本願発明の奏する顕著な作用効果の看過

審決は、本願発明の要旨とする構成によつてもたらされる効果は、第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明から当業者が当然に予測できたものであると判断するが、これは誤りである。

本願発明はその要旨とする通路とその入口、出口の形状をとることにより、公知の放電フライス削により容易に加工することができることとなり、精密な公差を維持することができ、デイフユーザの相互の均一性と一貫性が保たれるという顕著な作用効果を奏する。

一方、第一実施例記載のデイフユーザは、「通路は最初は円形入口断面25をとらせ、通路を徐々に矩形出口断面26になじませる」ものであるが、矩形出口断面26に至る途中の形状は判然としない。したがつて、その製造方法も不明である。

また、第二実施例記載のデイフユーザは、円錐形通路44になじみ通路46を付加したものであり、その構成は「全体的に半径方向外向きに収斂する」、即ち、互いに平行でない「円錐形の環状板50、50をスカラツプ形の截頭円錐面48、48にろう付けの様な普通の手段によつて取付ける」ものである。これは、本願発明とは異なり、矩形出口断面でしかもなじみ通路を有する構成のため、複数の工具を用いてドリル、グラインダによる機械加工を含む複数の工程で製造されるので、デイフユーザ相互の均一性と一貫性を確保するように製造することができない第二引用例記載の発明は、デイフユーザは複数の部品(多数のセグメントと平面デイスク)を機械加工等により製造し、組み立てて構成するものであるが、部品を組み立ててデイフユーザを構成した場合、デイフユーザの通路相互の均一性と一貫性を確保するのは難しい。

また、本願発明のデイフユーザでは、わん曲側部20、22は、直線形側部16、18の間に極めて鋭い端縁24を形成しているので、比較的滑らかで均等な流れが通路10を出ることになる。また、デイフユーザの通路の壁面に角ばつたところがないため、流体の流れの分布を一様に保つことができ、流体の流れの中の渦の発生を減少できるから、流体の運動エネルギーを効率よく圧力(静圧)に変換することができる。

これに対し、第一及び第二実施例記載のデイフユーザは、いずれも、流体の通路の出口断面が矩形であつて、直角の角を形成しているため、流体の流れはこれらの角で乱流となり渦を生じ、これらの渦が流れを妨け、圧力を減ずることになるが、デイフユーザの目的は、流体の運動エネルギーを圧力に変換することであるから、渦の発生は圧力を減じ、有害となる。

また、第二実施例記載のデイフユーザは、デイフユーザとして機能しないなじみ通路を付加したために、流体に対して滑らかな流路を与えないし、デイフユーザの効率を減少させている。

一方、第二引用例記載の発明のデイフユーザは、通路出口を構成するセグメント(18、23、28、31)の端縁が厚いために通路出口の流れを滑らかで均等なものにすることができない。このデイフユーザは、セグメントの端縁を厚くして流れの横方向の漏れを無くするものであり、これを薄くすることはできない。

以上のとおり第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明を併せ考えても、本願発明の作用効果を示唆するものではなく、審決の前記判断は誤りである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

1  取消事由一について

第一引用例に「円周方向に相隔たる通路が曲線状断面であるデイフユーザは周知である。(略)このようなデイフユーザの利点は、流れの剥離並びに矩形通路の隅に生ずる境界層が少なくなることである。然し、曲線状通路の間に見られるような一連の鈍つた縁から出てゆく流れは乱流になり、かなりの流れ損失を招く。出てゆく流れが滑らかで一様である為には、直線状通路に見られるような縁が薄い羽根が最も望ましい。この為、折衷案として、通路に最初は円形又は曲線状の入口断面をとらせ、徐々に矩形の出口断面になじませることにより、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にしながら、流れの剥離を最小限にすることが、好ましいと考えられている。」(一頁右下欄二〇行ないし二頁左上欄一六行)、「普通のデイフユーザは円周方向に相隔つて環体を通りぬける多数の通路24を持ち、通路の断面積は半径方向外向きに徐々に広くなる。この通路が、流れ媒質が羽根車から出てゆく時の大きな運動エネルギを、外周面22から出てゆく時の静圧エネルギに変換する。通路に最初は円形入口断面25をとらせ、通路を徐々に矩形出口断面26になじませて、流れの剥離を最小限に押えながら、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にする事が周知であることは、前に述べた通りである。」(二頁右下欄五行ないし一六行)と記載されている。

第一引用例の右記載からすると、第一実施例は、その背景技術(普通の大抵の従来周知のデイフユーザ)である通路断画が曲線状のものと、通路断面が直線状のものとの折衷案であつて、円形の入口断面から矩形の出口断面へと半径方向外向きに徐々に広くさせ、流れを滑らかで一様にしながら(通路出口を直線状にしたことによる。)、流れの剥離を最小限にする(通路の入口から出口までを曲線状にしたことによる。)ものであると認められる。

一般に、この種の音速以下の遠心圧縮機等に用いられるデイフユーザは、拡散管ともいわれ、その断面積を徐々に広げるものである。そして、第一実施例記載のデイフユーザの通路は、入口断面が円形で、出口断面が矩形であるから、デイフユーザとして機能させるには、幾何学上、円から矩形へと形が変化しなければならないことは技術常識である。

一方、本願発明については、本願明細書に「通路10の断面積は、それを通るガスを拡散させるように半径方向外方にしだいに広くなつており、こうしてガスの高い運動エネルギを静圧エネルギに変換する。通路10は最初、流れ分離損失を最小にするために第2図に明示のように円形断面を有し、その後第3図と第4図に明示のようにしだいに近似的に長方形の断面へと変化している。通路10出口14の近似的に長方形の断面は二つの平らな対向平行側部16、18と二つの対向わん曲側部20、22とによつて限定されている。各々の対向わん局(「わん曲」の誤り。)側部20、22は、第3図及び第6図に示す様にデイフユーザ通路10の中心線よりみて凸である円弧状に形成されている。」(明細書三頁一六行ないし四頁五行、昭和五九年一〇月一日付手続補正書二頁五行ないし九行)と記載されているが、それ以上、明細書及び図面において、二つの平らなわん曲側部の曲率が円弧であるのか否か等通路の具体的形状は明らかにされておらず、またそれは本願発明の要旨ではない。

右本願明細書の記載による入口から出口に至るまでの通路の断面形状の変化と、第一実施例記載のそれとは、「徐々に」と「しだいに」の相違はあるものの実質的には同じものである。

以上のことからして、第一実施例記載のデイフユーザの通路も入口断面円形から出口断面矩形に「しだいに変形している」ということができる。

したがつて、審決の第一実施例の技術内容の認定に誤りはなく、よつて、本願発明と第一実施例記載のデイフユーザの一致点の認定に誤りはない。

2  取消事由二について

第二引用例には、「そこで、本発明によるデイフユーザは(略)各々がセグメントの尖端部で合流する二つの略円形断面の溝形側面を有し、(略)溝形側面は円筒形または円錐形の外被表面の一部として設計しても良く、または、他のどんな形状をしていても良い。」(二頁右上欄一二行ないし二〇行)、「各セグメント18はまた二つの溝形側面19及び20の各々によつて画成される。この溝形側面19、20は円錐形または円筒形の外被表面の一部として構成されても良く、あるいは、他のどんな適当な形状をしていても良く、この結果、溝形側面19、20の間の二つの隣接セグメント18は少し平らになつた側壁を有する管状伸長溝を形成する。」(二頁右下欄九行ないし一六行)と記載されている。

第二引用例の右記載によれば、第二引用例記載の発明のデイフユーザの入口部位は、尖端部で合流する二つの略円形断面の溝形側面で構成されることから、審決が認定したとおり「略円形」である。この出口は二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲部とによつて限定されるところの近似的長方形へと「しだいに変形」するものである。

したがつて、第一引用例の第一実施例と第二引用例とでは、ともにその通路は、通路の断面積が半径方向外向きに徐々に(しだいに)広くなるもの、即ち「しだいに変形したもの」であり、その相違は、単に出口まで一側部がわん曲していくか否かのみである。

そして、第一引用例に記載されているとおり、通路の出口断面が円弧(わん曲部)であると鈍つた縁になり、乱流が発生するが四隅には境界層が発生せず、一方、出てゆく流れを滑らかで一様にし乱流がないようにするには直線状の縁で薄いものが望ましいが、四隅に境界層(渦)が発生してしまうという二律背反の課題となる。このような当該技術分野で知り尽くされた課題を解決する場合、そのいずれを犠牲にしていずれの技術的手段を採用するかという問題にすぎないものである。

したがつて、第一実施例記載のデイフユーザの通路出口の形状に第二引用例記載の発明のデイフユーザの通路形状を採用し、本願発明の構成を得ることを想到することは容易である。

3  取消事由三について

原告は、デイフユーザ出口から流れ出る流体の流れが滑らかで一様であるためには、単に出口の薄さのみで決まるのではなく、デイフユーザの流体の通路の形状によつて決まるとして、第一引用例の第二実施例からは、本願発明のように曲線状の縁を極めて薄くすることは想到し得ないことである旨主張する。

しかし、本願発明においてデイフユーザの通路の形状については何ら特定せず、この点は本願発明の要旨でない。また、デイフユーザの通路の形状と出口の簿さとの関係についても何ら明細書において明らかにされていない。

したがつて、本願発明の出口の縁の薄さは本願発明の通路からくるものであり、第二実施例から出口の縁の薄さを本願発明のように簿くすることを想到することができないという原告の主張はその点で根拠がない。

更に、第一実施例記載のものも、前1で述べたとおり、通路の曲線状を出口端縁で直線状にすることで、端縁を薄いものとしたものである。

第二実施例記載のデイフユーザは、なじみ通路を設けたものであるが、通路の出口の断面の軸方向に伸びる幅を薄い後縁にすることで滑らかで一様な流れに合流させるものである(第一引用例右下欄一〇行ないし一四行)。

以上のことからすると、本願発明の出口の対向わん曲側部はデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁を形成するものとすることは単なる設計的事項というべきであり、審決の判断に誤りはない。

4  取消事由四について

原告は、本願発明と第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明のデイフユーザの製造方法の違いを挙げて、本願発明のデイフユーザは放電フライス削りにより製造できるので、相互の均一性と一貫性を確保することができるという優れた作用効果を奏する旨主張する。

しかし、第一引用例には、その発明の目的として、「複雑な加工作業に頼らず、或いは嵩張つた余分の金物を付け加えず、普通の製造技術により、各々の通路の矩形出口断面の面積を、通路の円形入口断面の直径に関係なく変えることが出来るようにしたデイフユーザを提供すること」(二頁右上欄一八行ないし左下欄三行)、「通路をフライス加工又は電気化学加工のような普通の方法で加工することが出来ること」(四頁右上欄二〇行ないし左下欄二行)と記載されており、発明の目的もデイフユーザの加工方法も本願発明とで差異はない。

また、本願発明や第一実施例記載のデイフユーザのような、通路の断面が円からしだいに近似的矩形又は矩形へ変形するような孔(通路)を加工するのに、単一の工具で放電加工することは、従来周知のことであり(乙第一〇号証)、その技術によつても精密な公差を確保しうるものである。

また、原告は、本願発明は対向わん曲側部はデイフユーザ出口に極めて鋭い端縁を形成する等として、そのことによる作用効果を挙げて、第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明からは予測できない顕著な作用効果を奏する旨主張する。

しかし、デイフユーザの出口断面が直線状の四隅には境界層(渦)が発生するが出てゆく流れには乱流が発生せず、一方、わん曲側部(円弧状)で形成される鈍つた縁では、境界層(渦)は発生しないが乱流が発生するという二律背反の課題か周知であることは前述のとおりである。

当業者はデイフユーザの通路出口を考えるにあたり、そのいずれかの課題を重視し、いずれかを犠牲にするものであるが、第一実施例記載のデイフユーザは、その二律背反の課題を解決するためこれらの折衷案であることも前述のとおりである。

本願発明は、わん曲側部によつて鈍つた縁になるので、第一実施例記載の直線状の薄い縁のものにくらべて比較的滑らかで均等な流れが通路10を出るといつても、そのことは前記の周知の二律背反の課題のうち何を重視するかという問題にすぎないものであり、本願発明のその点の作用効果は、当業者が当然に予測することができたものである。

以上のことからすると、第一実施例記載のものもデイフユーザ相互の均一性と一貫性を確保しうるものであり、本願発明がその点で特に優れた作用効果を奏するとの原告の主張は理由がない。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)及び同三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決の本願発明と第一実施例の発明との相違点の認定は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

一  本願発明について

成立に争いのない甲第二号証(特許願並びに添付の明細書及び図面)及び甲第五号証(平成一年二月六日付手続補正書)によれば、本願明細書には本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果として次のとおり記載されていることを認めることができる。

1  技術的課題(目的)

本願発明は、デイフユーザに関し、特に、燃焼室に向かう流れの分布を最適にするような形状を有し、そしてデイフユーザ相相互の均一性を確保するように公差を精密にして製造し得る遠心圧縮機用デイフユーザを提供することを技術的課題(目的)とする(明細書二頁四行ないし八行)。

2  構成

本願発明は、前記の技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする構成(特許請求の範囲(1)の記載)を採用した(平成一年二月六日付手続補正書別紙一頁二行ないし一八行)。

3  作用効果

本願発明のデイフユーザは、前記の構成を採用したことにより、精密な公差とデイフユーザ相互の均一性を維持できる比較的廉価な製造技術の確立に役立つ(明細書四頁一七行ないし二〇行)。

二  取消事由一について

1  成立に争いのない甲第六号証によれば、第一引用例には次のような記載かあることを認めることができる。

(特許請求の範囲(1))

「円周方向に相隔つて環体を通りぬける多数の通路を持つ環状ハウジングを有し、前記通路が最初に環体の内周面に於て曲線状入口断面をとると共に、徐々に環体の外周面に於ける直線状出口断面になじみ、環体の少なくとも一つの外周縁を斜め切りしてスカラツプ形の截頭円錐面を限定し、該スカラツプ形の截頭円錐面に隣接して截頭円錐形環体を配置して直線状出口断面の一つの公称直線状の縁を限定したデイフユーザ。」(一頁左下欄五行ないし一三行)

(発明の詳細な説明)

〈1〉 「円周方同に相隔たる通路が曲線状断面であるデイフユーザは周知である。(略)このようなデイフユーザの利点は、流れの剥離並びに矩形通路の隅に生ずる境界層が少なくなることである。然し、曲線状通路の間に見られるような一連の鈍つた縁から出てゆく流れは乱流になり、かなりの流れ損失を招く。出てゆく流れが滑らかで一様である為には、直線状通路に見られるような縁が薄い羽根が最も望ましい。この為、折衷案として、通路に最初は円形又は曲線状の入口断面をとらせ、徐々に矩形の出口断面になじませることにより、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にしながら、流れの剥離を最小限にすることが、好ましいと考えられている。」(一頁右下欄二〇行ないし二頁左上欄一六行)

〈2〉 「デイフユーザで運動エネルギから静圧エネルギへの変換効率を最大にするには、通路の長さを一定に保ちながら、通路の出口面積と入口面積との比を変えることが必要になる場合が多い。然し、設計者は次に述べるような拘束を受ける。(略)従来、複雑で経費のかゝる加工作業をするか、又は嵩張つた余分の金物を付け加えないと、矩形の通路出口の、軸方向寸法を円形の入口断面の直径より小さくすることが出来なかつた。その為、設計者は、必ずしも通路の出口面積と入口面積との比を、運動エネルギから静圧エネルギへの変換効率が最大になるよう調製することが出来なかつた。」(二頁左上欄一七行ないし右上欄一三行)

〈3〉「従つて、この発明の目的はデイフユーザの半径並びに通路の数に関係なく、効率を最適にすることができるデイフユーザを提供することである。

この発明の別の目的は、複雑な加工作業に頼らず、或いは嵩張つた余分の金物を付け加えず、普通の製造技術により、各々の通路の矩形出口断面の面積を、通路の円形入口断面の直径に関係なく、変えることができるようにしたデイフユーザを提供することである。」(二頁右上欄一四行ないし左下欄三行)

〈4〉 「次にこの発明の好ましい実施例を図面について説明する。

第1図及び第1a図には遠心圧縮機の一部分が示されており、(略)更に、普通の環状デイフユーザ11が(略)示されている。(略)普通のデイフユーザは円周方向に相隔つて環体を通りぬける多数の通路24を持ち、通路の断面積は半径方向外向きに徐々に広くなる。(略)通路に最初は円形入口断面25をとらせ、通路を徐々に矩形出口断面26になじませて、流れの剥離を最小限に押さえながら、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にする事が周知であることは、前に述べた通りである。」(二頁左下欄一四行ないし右下欄一六行)

〈5〉 「第3図及び第3a図に、普通の遠心圧縮機の一部分がこの発明の環状デイフユーザ30とともに示されている。」(三頁左下欄七行ないし九行)

「最初に通路34に円形入口断面をとらせると、流れの剥離を招き且つ効率の低下を伴う惧れのある四角の隅を持つ矩形の場合の境界層の剥離性が少なくなる。然し、一連の鈍つた即ち厚い縁を介して流体を放出した場合に起る流れの剥離及び損失を伴わずに、流体が軸方向に伸びる薄い後縁40から出て行つて滑らかで一様な流れに合流するように、通路34は矩形断面になじむことも必要である。」(三頁右下欄五行ないし一三行)

「上に述べた理由で、デイフユーザ30の通路34は、円形入口断面36と破線42で示した中間円形断面の間にある全体的に円錐形の通路44と、この中間断面42と外周32に於ける矩形出口断面38の間にある全体的になじむ通路46とに分けることが出来る。なじみ通路46は最初は円形断面であり、そして流れを徐々に矩形断面38になじませる。」(四頁左上欄六行ないし一三行)

(図面の簡単な説明)

「第1図は普通のデイフユーザと遠心圧縮機との部分断面図、第1a図は第1図の線1a-1aで切つた断面図、(略)第3図はこの発明のデイフユーザと遠心圧縮機の一部断面で示した側面図、第3a図は第3図の線3a-3aで切つた断面図、第4図は第3図のデイフユーザを一部欠いて示す斜線図」(五頁左上機九行ないし一六行)

2  審決は、第一引用例の第1図及び第1a図に記載されたところのデイフユーザをもつて第一実施例と定義して、あたかもそれが第一引用例記載の発明(特許請求の範囲記載のもの)であるかの如く定義しているが、第一引用例の特許請求の範囲の記載は前認定のとおりのものであり(第3図以下に記載された審決が第二実施例と定義したデイフユーザがその実施例であること明らかである。)、第1図、第1a図に「外周縁を斜め切りしてスカラツブ形の截頭円錐面を限定し、該スカラツブ形の截頭円錐面に隣接して截頭円錐形環体を配置して直線状出口断面の一つの公称直線状の縁を限定した」構成が記載されていないことは明らかであり、第1図及び第1a図のデイフユーザは、第一引用例の特許請求の範囲に記載された発明の実施例ではない。第一引用例の前記発明の詳細な説明の〈1〉、〈4〉及び図面の簡単な説明の記載からすると、審決が第一実施例と定義したものは、「通路に最初は円形又は曲線状の入口断面をとらせ、徐々に矩形の出口断面になじませることにより、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にしながら、流れの剥離を最小限にする」ための折衷案である普通のデイフユーザについてのものと認められる。

以下、「第一引用例記載の発明」とは、第一引用例の特許請求の範囲に記載された発明をいうものとする。

3  そこで、第一引用例に記載された審決が第一実施例として定義した普通のデイフユーザ(以下単に「普通のデイフユーザ」という。)の通路の形状について検討することとする。

前認定の第一引用例の発明の詳細な説明の記載及び第1図、第1a図によれば、普通のデイフユーザの通路等の形状は次のようなものとして開示されている。

(1) 通路の入口断面は円形である。

(2) 通路の出口断面は矩形であり、二組の平行な直線側部となつている。

(3) 通路の断面積は、半径方向外向きに(即ち、出口に向かい)徐々に広くなる。

(4) 通路は、円形入口断面から徐々に矩形出口断面になじませている。

審決は、以上のことから、普通のデイフユーザの通路は、円形の入口断面から長方形(矩形)の出口断面に「しだいに変形」したものであると認定している。

右(4)の「なじませる」という語の意味は判然としないものがあるが、それが通路の断面形状の変化の状態を表したものであることは明らかである。

そして、デイフユーザは、流体の流れを拡散させて、その運動エネルギーを静圧エネルギーに変えるもので、その通路は、円錐形のように入口から出口まで、断面積を徐々に拡大させるのが通常であり、また、その拡大に当たり複雑に形状を変化させるようなものがたいことは前記第一引用例の記載事項及び弁論の全趣旨に徴し明らかである。

なお、第一引用例記載の発明のデイフユーザ(審決が第二実施例と定義したもの)は最初円錐形の通路をとり、その後第4図にあるような「なじみ通路46」を設けたものであり、デイフユーザの通路として一見形状の著しく異なつた二つの部分から構成されているように見えるが、この「なじみ通路46」はデイフユーザの機能を果たすものでないことは当事者間に争いがない(第八回準備手続調書)ものである。

そして、普通のデイフユーザの通路が、入口は円形断面で出口が矩形断面であり、その間、断面積が拡大していつているとすると、前記(4)の「通路は、円形入口断面から徐々に矩形出口断面になじませている」ことの意味は、入口の円形断面が、入口からしだいに形を変えてゆき、通路出口において矩形断面になる、すなわち、通路の断面か円形から矩形にしだいに変形していくことを表しているものと理解することができる。

原告は、普通のデイフユーザも第一引用例記載の発明のデイフユーザの「なじみ通路46」のようななじみ通路を設けたものである旨主張するが、前認定の第一引用例の記載事項からすると、なじみ通路を設けることは第一引用例記載の発明の創案に係るものであり、従来例たる普通のデイフユーザがなじみ通路を設けたものであるとは到底解されない。

その他、本件記録上、右の認定を不当とし、普通のデイフユーザの通路の形状の変化がそれ以外の状態のものであると認めるべき資料は存在しない。

もつとも、普通のデイフユーザの通路が入口の円形断面から出口の矩形断面にしだいに変形しているといつても、その変形の具体的程度、状態は明らかではない。しかし、本願発明においても、その要旨として単に断面円形の入口(12)から近似的に長方形の出口(14)にしだいに変形するとするのみで、その具体的変化の状態は本願発明の要旨とされておらず、その変化の状態は特定されていないものであり、その点で普通のデイフユーザと違いはない。

したがつて、審決が、普通のデイフユーザの通路が入口の円形断面から出口の長方形断面にしだいに変形していると認定したことに誤りはなく、したがつて、また、本願発明と普通のディフユーザとで、その点で一致すると認定したことに誤りはない。

三  取消事由二について

成立に争いのない甲第七号証によれば、第二引用例には、次のような記載があることを認めることができる。

(特許請求の範囲(1))

「夫々末端において合流する二つの溝形側面19、20を有する多数のセグメント18、23、28、31を二つの平行な平面ディスク16、17の間に設け、これら隣接するセグメント間に管状伸長流路を形成してなる遠心圧縮機用出口デイフユーザー」(一頁左下欄五行ないし九行)

(発明の詳細な説明)

「本発明によるデイフユーザーは(略)各々がセグメントの尖端部で合流する二つの略円形断面の溝形側面を有し、管状伸長通路が隣接するどの二つのセグメント間にも構成されるような方法で二つの平行な平面ディスク間に装着されている。

溝形側面は円筒形または円錐形の外被表面の一部として設計しても良く、または、他のどんな通当な形状をしていても良い。」(二頁右上欄一二行ないし二〇行)

「各セグメント18はまた二つの溝形側面19及び20の各々によつて画成される。溝形側面19、20は円錐形または円筒形の外被表面の一部として構成されても良く、あるいは、他のどんな適当な形状をしていても良く、この結果、溝形側面19、20の間の二つの隣接セグメント18は少し平らになつた側壁を有する管状伸長溝を形成する。」(二頁右下欄九行ないし一六行)

右認定の第二引用例の記載事項及び第1図ないし第6図からすると、第二引用例のデイフユーザの通路は、入口が略円形等をした断面(平面ディスク16、17によつて構成される部分は直線状となり、溝形側面19、20で構成される部分は図面のものでは円弧となつている。)であり、出口方向に向かい平面ディスク16、17で構成される直線状の部分が長くなり、溝形側面19、20で構成される部分は同一形状を維持するか(溝形側面が円筒形の外被表面の一部として構成される場合)又は曲率半径が変化しながら(溝形側面が円錐形の外被表面の一部として構成される場合)、をの断面積を拡大していき、その出口は、二つの平らな対向側部(平面ディスク16、17によつて構成される部分)と二つの対向わん曲側部(溝形側面19、20によつて構成される部分)によつて限定され、その対向わん曲側部は出口において平坦縁(セグメント18の外周部分)を形成しているものと認めることができる。

したがつて、また、第二引用例には、デイフユーザの通路は、入口の略円形等の断面から前記直線状の部分のみが長くなつて面積の拡大した略円形等の出口断面にしだいに変形しているものが開示されているということができる。

以上のことからすると、普通のデイフユーザ、本願発明のデイフユーザ及び第二引用例記載のデイフユーザのいずれも、通路の断面形状は入口から出口までしだいに変形している点で共通するものであり、また、本願発明のデイフユーザと第二引用例記載の発明のデイフユーザとは、通路の出口を二つの平らな対向側部と二つの対向わん曲側部によつて限定した近似的長方形断面とした点においても共通し、ただ入口の断面形状が前者は円形であるのに対し後者は略円形である点、及び対向わん曲側部が出口において前者は鋭い端縁を形成するのに対し後者は平坦縁を形成する点においてのみ相違するものである。

さらに、第一引用例の前記〈1〉の記載からすると、円周方向に相隔たる通路が曲線状断面であるデイフユーザは、流れの剥離並びに矩形通路の隅に生ずる境界層が少なくなるという利点がある反面、一連の鈍つた縁から出てゆく流れは乱流になり、かなりの流れ損失を招くという欠点があること、出てゆく流れか一様である為には、直線状通路に見られるような出口の縁が簿いものが最も望ましいという、デイフユーザの通路の断面形状や出口の縁の厚みが流体の流れに与える影響は、第一引用例記載の発明の出願前に当業者にとつて周知のものであり、当業者は、そのような周知の事項のもと、デイフユーザの効率を最大にするよう通路、出口の形状等を設計するものと認めることができる。

そして、普通のデイフユーザは、通路に最初は円形又は曲線状の入口断面をとらせ、徐々に矩形の出口断面になじませることにより、デイフユーザから出てゆく流れを滑らかで一様にしながら、流れの剥離を最小限にしようとしたものである。

しかし、一方、流れの剥離及び境界層を少なくするという観点からは、曲線状のものが望ましいことは周知であるから、当業者が、その点を重視して、普通のデイフユーザの通路出口の形状を、第二引用例記載の発明のデイフユーザの出口のように、円周方向に対向する直線状の縁を曲線状のものにすること、即ち、本願発明のように近似的に長方形の出口断面のものとし、入口の通路をこの近似的に長方形の出口断面にしだいに変形させていくことを想到することは容易であるというべきである。

原告は、普通のデイフユーザは曲線状の出口断面を有する通路を否定して直線状の出口断面の通路を採用したものである等として、普通のデイフユーザの通路の出口断面を曲線状のものにすることを想到することは容易でないと主張するが、以上のことからして、およそ理由がないというべきである。

したがつて、原告の取消事由二の主張は、理由がない。

四  取消事由三について

原告は、本願発明のようにデイフユーザの通路出口を極めて鋭い端縁にすることは単なる設計的事項にすぎないとした審決の判断の誤りを主張する。

普通のデイフユーザ及び第二引用例記載の発明から、当業者が本願発明のように通路出口を近似的長方形のものにし、通路を入口の円形断面からしだいに近似的に長方形の出口断面に変形させることを想到することが容易であることは前二、三で述べたとおりである。

そして、第一引用例には、前記〈5〉の記載のとおり、出口の縁が厚いと流れの剥離及び損失等を起こすこと、そのため第一引用例記載の発明のデイフユーザ(第二実施例)では後縁40を薄くして滑らかで一様な流れに合流させるようにすることが開示されているのである。

第一引用例記載の発明のデイフエーザの通路の出口は矩形であり、円周方向の対向側部(縁)は直線状であるが、そこに開示された「縁を薄くして滑らかで一様な流れに合流させる」技術的思想を、前記の普通のデイフユーザ及び第二引用例記載の発明から容易に想到されるところの通路形状(出口が近似的に長方形のもの)を持つデイフユーザに通用し、出口の円周方向に対向する対向わん曲側部を極めて薄くするようなことは設計的事項として当業者が容易にすることができるものと認められる。

原告は、デイフユーザ出口から流れ出る流体の流れが滑らかで一様であるためには、単に出口の縁の薄さのみで決まるのではなく、デイフユーザの流体通路の形状によつて決まるものであり、第一引用例記載の発明のデイフユーザは、本願発明のように曲線状の縁を極めて薄くすることは開示ないし示唆していない旨主張するが、通路の出口の縁を薄くすることにより流れを滑らかで一様のものにすることができることが周知であれば、曲線状の縁にこれを適用してみることは当業者が容易に考えることであり、原告の主張は理由がないというべきである。

五  取消事由四について

原告は、審決の、本願発明の作用効果は第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明から当業者が容易に予測できたものであるとの判断の誤りを主張する。

原告は、本願発明の製造方法が放電フライス削りによれるため、精密な公差を維持することができ、デイフユーザ相互の均一性と一貫性が保たれる旨主張する。

前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「デイフユーザ通路10の中心線と壁体は直線状でありそして円形断面から長方形に近似する断面への円滑な遷移をもたらしているので、デイフユーザ8は公知の放電フライス削り技術によつて容易に製造し得る。すなわち、簡単な工具を用いて環状ハウジングの放電フライス削りを行うことによつて本発明のデイフユーザを製造し得る。」(四頁二〇行ないし五頁七行)と記載されていることが認められる。

しかし、普通のデイフユーザにおいても、通路の中心線は直線状であり、円形断面から矩形断面にしだいに変形している、即ち円滑な遷移をもたらしているものであり、公知の放電フライス削りの技術によつて製造し、デイフユーザ相互の均一性と一貫性を保つことは可能であり、その点で本願発明が格別優れているということはできない。

また、原告は、第一引用例記載の発明のデイフユーザのなじみ通路の部分及び第二引用例記載の発明のデイフユーザは放電フライス削りにより加工することはできない旨主張するが、仮にそうであつたとしても、そのことから直ちに、それらのデイフユーザが精密な公差を維持することはできず、ディフユーザ相互の均一性と一貫性を保つことができないということはできない。

以上のとおり、本願発明がデイフユーザ相互の均一性と一貫性を保てるとして、第一引用例の第一及び第二実施例並びに第二引用例記載の発明からは予測できない顕著な作用効果を奏するとの原告の主張は理由がない。

また、原告は、本願発明のデイフユーザはその効率が格別優れている旨主張する。

しかし、前述のとおり、デイフユーザの通路の断面形状や出口の縁の厚みが流体の流れに与える影響は周知のものであり、当業者は、そのような周知の事項のもと、デイフユーザの効率を最大にするよう通路、出口の形状等を設計するものである。

そして、本願発明の構成は、普通のデイフユーザ及び第一引用例記載の発明並びに第二引用例記載の発明から当業者が容易に想到することができたものであることも前述のとおりであるから、デイフユーザの効率という観点からみた本願発明の作用効果はこれらの公知技術から当業者が容易に予測できたものであることは明白である。

したがつて、審決の本願発明の奏する顕著な作用効果の看過をいう原告の主張は理由がない。

五  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は、いずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間を定めることにつき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面一

〈省略〉

別紙図面二

〈省略〉

別紙図面三

〈省略〉

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